エビネの魅力 

私はランを熱心に栽培した時期があった。温室が必要となる、カトレヤとまでは手がでなかったが、シンビジューム、ファレノプシス、デンドロビューム、オンシジューム、シュンラン、寒ラン、エビネなどを育てた。妖しい魅力を持つ美しい洋ランも良いが、地味な花が多く、侘びさびの世界を彷彿とさせる東洋ランもまた、日本人の心をとらえて離さない人気がある。

ある日、実家の近くの山武杉(サンブスギ)の大木が茂る森の中を散歩していた。この杉は江戸時代より栽培が盛んになり、スギ花粉を飛ばす雄花が少ないことで知られ、花粉症の心配が極めて少ない種類である。このことは最近知った。

そんな杉林の木陰で、木漏れ日を浴びながら、エビネがひっそりと咲いていた。その、上品で優雅な花。可憐で繊細だが厳しい気候条件に耐え忍ぶエビネの姿は、清楚で凛とし、慎ましく、一歩引いて男性を立て、男性に尽くす甲斐甲斐しい日本女性の美徳を連想させた。エビネにはそんな魅力があった。(いまどきそんな女性像を求めるなら、時代錯誤もはなはだしいと馬鹿にされるだけだが・・・)

エビネ(海老根、)は、日本各地の山林に自生している野生ランの仲間で、学名のカランセはラテン語で「美しい花」という意味がある。日本が世界に誇る最も魅力的なエビネは、品種改良が進んで、丈夫で育てやすく、カラフルで美しい花がたくさん生まれている。

日本種は温室がなくても育種可能なランでジエビネ、キエビネ、キリシマエビネ、ニオイエビネ、ヒゼン、ヒゴ、サツマ、コオズ、イシズチ、ナツエビネ、リュウキュウエビネ、などと多種多様である。昭和50年代には山野草ブームと重なって、ちょっとしたものでも10万円台、100万円を越すものもざらであった。私のラン仲間で、40万円で青色のエビネを手に入れ悦に入っていた者もいた。

私のランの栽培は熱もさめ、今ではもっぱら鑑賞するのみである。当時、赤球土を焼いて、作った焼成土(クレーボール)が庭の片隅に放置されている。一方、家人は胡蝶蘭を10年以上元気に咲かせている。栽培の秘訣は「あまり手をかけずに、いじくりまわさず、生育の環境をつくってやること」だそうだ。なにか子供の教育にも通じるものがありそうだ。今年、家人の誕生日に、ピンクの胡蝶蘭を贈った。「ハッピービビアン・チュンリー」との洒落た名前がついていた。国際博覧展で高得点を得た新種だそうな。

ところで、件のF社長は自身の著書や我われ社員に対して「レコードにA面とB面があるように、A面だけでなくB面を充実させ、人間の幅を広げなさい。」と伝えていた。ここで言うA面とは仕事のことであり、B面とはプライベートのこと、つまり趣味や教養を充実させていくことである。今風に言えばワーク・ライフ・バランスのことだろう。私の場合は両面のどちらも中途半端だったが、どちらかといえばB面に力が入っていたようである。2014年記録?